労組法上の「労働者」該当性についての最高裁平成23年4月12日判決 1

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2011.4.17
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労組法上の「労働者」該当性についての最高裁平成23年4月12日判決 1

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 労働組合法は,労働三権の保障(憲法28条)を受けて,労使対等の理念に基づく団体交渉の助成のために,次のとおり規定し,労働組合結成を妨げるような行為を,「不当労働行為」として禁じています。

(不当労働行為)
第7条  使用者は,次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 一  労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結
   成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて,そ
   の労働者を解雇し,その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者
   が労働組合に加入せず,若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とするこ
   と。ただし,労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代
   表する場合において,その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用
   条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
 二  使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく
   て拒むこと。
 三  労働者が労働組合を結成し,若しくは運営することを支配し,若しくはこれに
   介入すること,又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を
   与えること。ただし,労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者
   と協議し,又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく,かつ,
   厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し,若しくは救済するための支
   出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の
   広さの事務所の供与を除くものとする。
 四  労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをし
   たこと若しくは中央労働委員会に対し第27条の12第1項の規定による命令に
   対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調
   査若しくは審問をし,若しくは当事者に和解を勧め,若しくは労働関係調整
   法 (昭和21年法律第25号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証
   拠を提示し,若しくは発言をしたことを理由として,その労働者を解雇し,そ
   の他これに対して不利益な取扱いをすること。

 使用者が不当労働行為を行った場合には,労働者は,労働委員会または裁判所を通じて救済してもらうことができます。
 しかし,労働組合法上の「労働者」といえない方の場合には,救済してもらうことができません。
 そのような,不当労働行為として救済される対象となる労働組合法上の「労働者」といえるかどうかが争点となった事件について,平成23年4月12日に,2件,最高裁判決が出ておりますので,ご紹介します。

 まず1つめは,年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例についてのものです。
 判決全文は,「最高裁第三小法廷平成23年4月12日判決(平成21(行ヒ)226) 」 をご覧ください。

 裁判等の経過は以下のとおりです。
 音楽家の労働組合が,新国立劇場を運営する財団に対して,
① 組合の会員を劇団の契約メンバーに合格させなかったこと
② 契約に関しての団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に該当する
として救済申立てをしました。
(1) 東京都労働委員会
 東京都労働委員会は,①については棄却し,②については認容しました。
(2) 中央労働委員会
 東京都労働委員会の判断に対してそれぞれが再審査の申立てをしたところ,中央労働委員会が双方の再審査申立てを棄却する命令を出しました。
 双方がその取消しを求めて提訴しました。
(3) 東京地裁(第1審)
 東京地裁平成20年7月31日判決(平成18(行ウ)459・同499)は,基本契約や個別出演契約の仕組みや出演実態に照らせば,契約メンバーが個別公演に出演することは事実上の期待にすぎず,法的な義務はなく,指揮監督も希薄であるから労組法上の労働者とはいえないとし,団体交渉に応じなくても不当労働行為に該当しないとして,財団の請求を認めました。
(4) 東京高裁(控訴審)
 東京高裁平成21年3月25日判決(平成20(行コ)303)も,上記地裁判決を維持しました。

 この事例において,上記最高裁判決は,次のように述べています。
「前記事実関係等によれば,出演基本契約は,年間を通して多数のオペラ公演を主催する被上告財団が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メンバーとして確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていたものであるといえるから,契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。

 また,契約メンバーは,出演基本契約を締結する際,被上告財団から,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望されており,出演基本契約書には,被上告財団は契約メンバーに対し被上告財団の主催するオペラ公演に出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾すること,契約メンバーは個別公演に出演し,必要な稽古等に参加し,その他個別公演に伴う業務で被上告財団と合意するものを行うことが記載され,出演基本契約書の別紙「出演公演一覧」には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演回数及び当該契約メンバーの出演の有無等が記載されていたことなどに照らせば,出演基本契約書の条項に個別公演出演契約の締結を義務付ける旨を明示する規定がなく,契約メンバーが個別公演への出演を辞退したことを理由に被上告財団から再契約において不利な取扱いを受けたり制裁を課されたりしたことがなかったとしても,そのことから直ちに,契約メンバーが何らの理由もなく全く自由に公演を辞退することができたものということはできず,むしろ,契約メンバーが個別公演への出演を辞退した例は,出産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていたことにも鑑みると,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,契約メンバーは,基本的に被上告財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。

 しかも,契約メンバーと被上告財団との間で締結されていた出演基本契約の内容は,被上告財団により一方的に決定され,契約メンバーがいかなる態様で歌唱の労務を提供するかについても,専ら被上告財団が,年間シーズンの公演の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の合唱団の構成等を一方的に決定していたのであり,これらの事項につき,契約メンバーの側に交渉の余地があったということはできない。

 そして,契約メンバーは,このようにして被上告財団により決定された公演日程等に従い,各個別公演及びその稽古につき,被上告財団の指定する日時,場所において,その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供していたのであり,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容については被上告財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加状況については被上告財団の監督を受けていたというのであるから,契約メンバーは,被上告財団の指揮監督の下において歌唱の労務を提供していたものというべきである。

 なお,公演や稽古の日時,場所等は,上記のとおり専ら被上告財団が一方的に決定しており,契約メンバーであるAが公演への出演や稽古への参加のため新国立劇場に行った日数は,平成14年8月から同15年7月までのシーズンにおいて約230日であったというのであるから,契約メンバーは時間的にも場所的にも一定の拘束を受けていたものということができる。

 さらに,契約メンバーは,被上告財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受けていたのであり,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当も支払われており,Aに支払われていた報酬(上記手当を含む。)の金額の合計は年間約300万円であったというのであるから,その報酬は,歌唱の労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当である。

 以上の諸事情を総合考慮すれば,契約メンバーであるAは,被上告財団との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

 その上で,「以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。」とした上で,Aが被上告財団との関係において労働組合法上の労働者に当たることを前提とした上で,被上告財団が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻しました。


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