事実認定と法教育

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2011.8.8
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事実認定と法教育

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 平成23年8月7日(土)に日弁連主催で開催された「第5回高校生模擬裁判選手権」(当ブログH23.8.7)や同月2日(火)に横浜弁護士会主催で開催された「サマースクール 2011」(当ブログH23.8.4)における模擬裁判では,生徒さんたちに刑事事実認定を体験してもらっています。

 元札幌高等裁判所長官・関西大学大学院法務研究科教授石井一正著『刑事実認定入門』(判例タイムズ社)によれば,
事実認定」とは,ある事実の存否が問題となったときに,証拠によりその事実の存否を決することをいいます。
 刑事事件では,「犯罪事実の存否およびその犯人が誰かが,最も重要な問題であるが,事実認定の対象はそれに限られません。

 刑事裁判で争いになることが圧倒的に多いのが,事実の存否の争いであり,事実認定が重要となっています。

 そのように重要なものなのですが,「事実認定というのは,結局のところ,過去に生じた出来事の痕跡(証拠)からある事実が存在するないし存在しないということを推測する作用にほかならない。」(上記『刑事事実認定入門』)ため,その事実があったかなかったかという正確な部分は,神のみぞ知る,というところがあります。
 なお,被告人が犯人かどうかということであれば,被告人自身は真実を知っているはずですが,「被告人が自分は犯人ではない。」と言っているとしてもそれを信用してよいのかという問題が残るので,被告人が犯人かどうかについても,やはり神のみぞ知る,ということになってしまいます。

 とはいえ,神様が裁判をするわけではないので,裁判官は刑事裁判において,どのように事実を認定するかという判断を常に迫られることになり,検察官や私たち弁護士も常にこの事実がどのように認定されるかを意識しながら裁判を行っていくことになります
(なお,本ブログでは刑事事実認定を取り上げていますが,民事事件や家事事件の場合,もっと証拠の乏しい中で事実認定を行うため,刑事事実認定以上に頭を悩ませることが多くなっています。)。

 「サマースクール 2011」(当ブログH23.8.4)における模擬裁判では,生徒さんたちに,シナリオどおりに演じてもらった上で,裁判官や裁判員として,被告人の有罪・無罪を考えてもらうという,刑事事実認定そのものを体験してもらっています。

 「第5回高校生模擬裁判選手権」(当ブログH23.8.7)では,そこからさらに一歩進んで,生徒さんたちに,検察側であれば証人尋問や被告人質問を通して,有罪の証拠となるべき供述をいかに引き出すか,無罪に働く供述をいかにつぶすか,という作業を行う(逆に,弁護側は,無罪の証拠となるべき供述をいかに引き出すか,有罪に働く供述をいかにつぶすか,という作業を行う)ことを体験してもらっています。

 中高生の生徒さんたちが普段学習していることは,どうしても正解・不正解がわかるものばかりでしょうが,ここでは,サマースクールや高校生模擬裁判選手権では,正解はあるかもしれないが,どれが正解かどうかは神のみぞ知るというものを題材にしています。
 そのような題材の中で,正解らしいものはどれか,なぜそれが正解らしいといえるのかを多角的な視点から考え,自分の考えを表明し,その根拠を論理的に説明して他人を説得できるだけの能力を身に付けてもらおうということで行っているものです。

 もちろん,サマースクールや高校生模擬裁判選手権に参加された生徒さんたちが法律家の道を目指してもらうのであれば大変喜ばしいものですが,法律家の卵を養成するために開催されたものではありません。
 あくまで,「多角的な視点を持ち,自分の考えを表明し,その根拠を論理的に説明して他人を説得する」能力を身に付けてもらおうということで開催されているのです(日弁連市民のための法教育委員会副委員長根本信義弁護士も第5回高校生模擬裁判選手権の閉会式で同趣旨の挨拶をされていました。)。

 多角的な視点を持ち,自分の考えを表明し,その根拠を論理的に説明して他人を説得する,というのはどの分野でも求められる能力でしょう。
 私たち法律家は,多角的な視点を持ち,自分の考えを表明し,その根拠を論理的に説明して他人を説得する,という訓練を受け,日々それを活用した業務を行っているのですから,中高生の生徒さんたちにそれを生かした手助けができるはずだと思いますし,社会貢献のためにもしなければならないところでしょう。
 
 もちろん,私たち弁護士等の法律家が担っていくべき「法教育」は,「法律専門家ではない一般の人々が,法や司法制度,これらの基礎になっている価値を理解し,法的なものの考え方を身に付けるための教育」を意味するもので,模擬裁判を通じて事実認定だけを伝えればいいというものではありません。
 とはいえ,模擬裁判は,「多角的な視点を持ち,自分の考えを表明し,その根拠を論理的に説明して他人を説得する」能力を身に付けることが必要であることを中高生の生徒さんたちに訴えやすいイベントであり,模擬裁判が法教育の一つの核となり続けることは間違いないところでしょう。
 
 このようなイベントがますます発展していくことを望んでいます。

 なお,横浜弁護士会においても,「横浜弁護士会 法教育センター」を設立して,模擬裁判を含む各種メニューを用意して法教育を行っておりますので(現在,同センターの運営については私が責任者ということになっています。),是非こちらも活用していただければと思います。

 

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