過払金返還請求訴訟と「悪意の受益者」 5

spacer_line
2012.1.6
spacer_line

過払金返還請求訴訟と「悪意の受益者」 5

spacer_line

 「過払金返還請求訴訟と『悪意の受益者』 2」で紹介した最高裁平成19年7月13日判決(民集61巻5号1980頁)及び最高裁平成19年7月13日判決(裁判集民事225号103頁)と,「過払金返還請求訴訟と『悪意の受益者』 3」で紹介した最高裁平成21年7月10日判決(民集63巻6号1170頁)の相違については,私は,端的に,下級審の裁判例や学説において採用されていた見解の多寡の問題ではないかと考えています。

 みなし弁済規定のうちの任意性要件に関し,下級審の裁判例や学説において採用されていた見解の多寡を考えるには,以下の2つの最高裁判決が参考になります。

 みなし弁済規定のうちの任意性要件に関し,最高裁平成2年1月22日判決(民集44巻1号332頁)は,次のように判示していました。
「貸金業の規制等に関する法律43条1項にいう『債務者が利息として任意に支払つた』及び同条3項にいう『債務者が賠償として任意に支払つた』とは,債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によつて支払つたことをいい,債務者において,その支払つた金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。」
 この判決の全文は,「最高裁平成2年1月22日判決(民集44巻1号332頁)」をご参照下さい。

 ところで,貸金業者による金銭消費貸借契約においては,債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには,当然に分割払いの期限の利益を喪失する(残元利金をを一括で返済しなければならなくなるもの)旨の特約が付されていることが圧倒的でした(少なくともこの最高裁判決以前の契約で私はその特約が付されていないものを見たことがありません。)。
 このような場合に,最高裁平成18年1月13日判決(民集60巻1号1頁)は,上記平成2年1月22日判決を引用しつつ,
「債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。」と述べ,つぎのように判示しています。
 「本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,上告人A1は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。
 このような結果は,上告人A1に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人A1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,上告人A1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。

 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。

 したがって,【要旨3】本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。

 この判決の全文は,最高裁平成18年1月13日判決(民集60巻1号1頁)」をご参照下さい。

ページの先頭へ戻る